「建設業は厳しい世界だから、怒られて一人前になる。」
以前の私は、この考え方をどこか当たり前のように受け入れていました。
実際、私自身もそのような環境で育ちました。
中卒で建設業界に入り、何を覚えれば良いのかも分からないまま現場へ出る毎日。
先輩の背中を見て覚える。
怒られながら覚える。
失敗して覚える。
その経験があったから今の自分があることも事実です。
しかし、経営者になって多くの社員と向き合う中で、一つ確信したことがあります。
それは、
「人は恐怖では成長し続けられない。」
ということです。
もちろん、安全を守るために厳しく指導しなければならない場面はあります。
高所作業。
高電圧設備。
現用の通信設備。
一つ判断を誤れば、大きな事故につながる可能性があります。
だから命に関わることは妥協しません。
しかし、それと感情的に怒ることは全く別の話です。
私は、怒ることが目的になってしまう組織を作りたくありませんでした。
なぜなら、私自身がそのような環境で働き、人の顔色をうかがいながら仕事をする苦しさを知っているからです。
「また怒られるかもしれない。」
「失敗したら責められる。」
そんな気持ちで働いていても、本当の意味で挑戦する人は育ちません。
挑戦しなければ成長もありません。
だからアクトでは、人材育成の考え方を根本から見直しました。
私たちが目指しているのは、人を感情で動かす組織ではありません。
目的を理解し、自ら考え、自ら行動できる人が育つ組織です。
その考え方を形にしたものが、ACT人材開発モデルです。
これは評価制度ではありません。
人を評価するためではなく、人を育てるための仕組みです。
アクトでは、メンバーグレード(G5)を五つのレベルに分けています。
「知る」
「分かる」
「行う」
「出来る」
「分かち合う」
この順番には意味があります。
最初は「知る」。
安全ルール。
会社の理念。
工具や材料。
現場で必要な基本を学びます。
次に「分かる」。
ただ教えられるだけではありません。
なぜこの安全ルールがあるのか。
なぜこの施工方法なのか。
理由まで理解します。
そして「行う」。
ここがアクトで最も大切にしている段階です。
私は以前から、
「実行しなければ何も変わらない。」
と考えています。
知識だけでは価値になりません。
理解しただけでも価値にはなりません。
現場で実践し、継続できて初めて、自分の力になります。
さらに「出来る」。
安定した品質で施工できるようになります。
任された仕事を最後までやり切る力を身につけます。
そして最後が「分かち合う」です。
ここが、一般的な育成制度との大きな違いだと思っています。
自分だけが技術を持っていても、組織は強くなりません。
後輩へ伝える。
仲間を支える。
チーム全体で品質を高める。
リーダーシップを身につける。
人との関わり方を学ぶ。
教養を身につける。
もうすぐ職長になる準備をする段階です。
技術だけでは次の役割には進めません。
人としての成長も必要だからです。
その先には、リーダー(G4)がいます。
リーダーの一番大きな役割は、現場を安全に完工させることです。
技術が高いだけでは務まりません。
現場全体を見渡し、危険を予測し、仲間を守る責任があります。
さらにその先には、マネージャー(G3)がいます。
ここで初めて育成責任を担います。
仕事を教えるだけではありません。
リーダーを育てることが使命です。
私は、この役割の違いを明確にすることが、組織の成長につながると考えています。
実際、今年六月に半期に一度の評価査定を行いました。
その結果、約九割の社員が昇格・昇給しました。
私はこの結果を見て、数字以上に嬉しかったことがあります。
社員一人ひとりが、「何を目指せばいいのか」を理解し、その目標に向かって実行していたことです。
以前は育成に悩みました。
教える人によって内容が違う。
成長の基準が曖昧。
評価にもばらつきがある。
しかし、ACT人材開発モデルを整備してからは変わりました。
若手社員からは、
「次はこれを覚えます。」
「この項目をできるようにします。」
という前向きな言葉が増えました。
成長とは、才能ではありません。
正しい方向へ努力を積み重ねることです。
だからこそ、会社には「成長の道筋」が必要だと思っています。
今年度からは、さらに人材育成を強化します。
埼玉県の支援制度も活用し、リーダーシップ研修や管理職研修、コミュニケーションやマネジメントを学ぶ外部研修にも積極的に参加していきます。
なぜそこまで教育へ投資するのか。
理由はシンプルです。
技術だけでは、人は育たないからです。
人と関わる力。
相手を理解する力。
信頼関係を築く力。
人を成長へ導く力。
これらは現場経験だけでは身につかない部分もあります。
だから社内だけで完結せず、外部の知見も積極的に取り入れながら、人としての器を広げていきたいと考えています。
私は経営者として、社員に成長を求める以上、自分自身も学び続けなければならないと思っています。
建設業界は、人手不足という課題を抱えています。
だからこそ今後は、「人を集める会社」よりも、「人が育つ会社」が選ばれる時代になると私は考えています。
給与も大切です。
休日も大切です。
福利厚生も大切です。
しかし、それだけでは長く働き続けたい会社にはなりません。
「この会社で働いたから、自分は成長できた。」
そう思える環境こそが、本当の価値ではないでしょうか。
私は、建設業界をもっと魅力ある業界にしたいと本気で考えています。
技術を磨くこと。
人格を磨くこと。
仲間を支えること。
そして、お客様に安心と信頼という価値を届けること。
その積み重ねが、社員の人生を豊かにし、会社を成長させ、社会への貢献につながると信じています。
ACT人材開発モデルは、そのための仕組みです。
まだ完成ではありません。
社員と共に学び、改善を続けながら、より良いモデルへ進化させていきます。
私たちが目指しているのは、技術者を育てる会社ではありません。
人として成長し続けられる人材を育てる会社です。
その先に、建設業界の未来があると信じています。